000

左翼は偽善者、保守派は正義

+本文表示

だよね?

453

「大平、福田の間に何かがある」と第一線の記者たちは盛んに噂をしていたが、二人が会談したという実態は一度も見たことがない。そこでこれを紙上で実現しようというのだから、当然 党内外の関心を惹くはずのものだった。
大平から急にいいつけられた私は困ったが、仕方がない。質問を四つか五つに絞って、数名の友人と、私が知己になった若手の政治学者らに電話連絡し「夜10時、某所に電話で返事」をもらうことにした。

この対談の中心問題は「灰色高官の定義とその政治的な処置」であった。後になって「灰色高官の定義」は一応定まったが「灰色高官の処置」は憲法第九条の解釈論のように、政治的にも社会的にも宙づりになったまま今日に到っている。
紙上大福対談における大平の発言は極めて的確で 宏池会の同志からも好評であった。オピニオン・リーダーとしての大平がここで芽を出した感があった。宏池会の幹部会は今後における政局に対し、その対応を大平に一任したが、これはこの対談がきっかけだと私は思っている。

5月30日、大平蔵相は大阪財界人と懇談し、みそぎ論の趣旨を ロッキード究明、総裁公選、解散・総選挙の三つの柱で解明した。

454

また党内における色々な派閥の存在を様々な楽器に喩え「色々な楽器が それぞれ独自性を持ちつつ、各種の音色を有機的に結びつけることで立派なコーラスとなり交響楽を奏することができる。そのときバイオリン(総理)だけが音色を出す時よりは 比べ物にならぬ音楽となる」と述べ聴衆の感銘を得た。この派閥のコーラス論は 或る政治評論家の論旨を大平なりに換骨奪胎したもので、これが後に大平の派閥弊害除去論として定着していった。大平の大阪遊説は大成功であったと後で聞いた。

5月31日の朝、また大平から電話があった。
「三木、福田、椎名の三人に会うことにした。その心構えについて何か思いつくことはないか」
というのだ。大平はこの前の朝日の企画ですっかり満足したらしい。私は即座に
「臨時国会は開かねばならない。開けば灰色高官の名前を発表しなければならない。灰色高官の定義はまだ確定していない。だから三木は辛い立場に立つ。これをどうするか、を三木総理に問いただせ」「福田と椎名には これからの段取りを述べればよい」
と答えた。私はそのまま このことを忘れてしまった。

455

6月2日朝8時すぎ、大平から電話で
「三木総理と会談した。一度内容を分析してほしい。昨日の夕方5時に三木総理、ついで椎名副総裁と会った。今日午後1時、大蔵省に来てくれ」
といってきた。大蔵省の大臣室へ出向くと
「これは誰にもまだ話していない。宏池会の連中が聞きたがるので大蔵省から出ないのだ」
と前置きして、一時間ほど三木首相との会談の内容を次のように語ってくれた。
「ロッキードの真相究明とは一体どういうことか。アメリカからの話で一段落するのではないか」
「一応、起訴が問題になる。そこで起訴しない者(灰色高官)が出てくる。ここから一切の問題が始まり、党内の派閥も影響を受ける」
「あなた(三木首相)の真相究明は手ぬるいことにならないか。新聞も野党もこれに食いついてきて あなたはとっちめられるぞ。派閥解消はどう思うか」
「党員を拡大してゆきたい。この拡大と共に予備選挙で総裁を公選したい」
「党員拡大方式はこぢんまりと党がまとまるにはいいが、自民党の活力が失われはしまいか。私(大平)はにわかに同意しがたい」

456

「2月に私(三木)は椎名に文書を送った。派閥が政策を決議したり、自分の候補者だけを応援するやり方は適当ではない、と思っている」
「これは判る。私もいい方法を考えたい。保革連合をどう思うか」 (おれがこう聞くと 三木首相は身を乗り出して語った)
「自分(三木)ほど保革連合の弊害を知っている者は少ない。自民党は絶対多数を失ってはならないのだ。保革連合は絶対に避けねばならぬ。共産党との連合は殊にいけない。私はこのことを身をもって体験した」
「党内はあなた(三木)について そうは見ていない。誤解を解く必要がある。ともかくも党の立場を考えればいい。この立場で椎名と会われればいい。進退ははっきりされよ。みっともないことはなさらぬがいい」
「それは判っている」
「この会談はどう発表しようか」
「党の団結を固めた、ということにしたい」
「それは適当ではない。当面する問題について話し合った。話し合いで解決しよう、ということではどうか」
「それでよい」
「椎名との連絡には灘尾を使うのか」
「そうだ」
「第一点(検察の動き)については椎名に会った時 話しておきますよ」
「結構だ」

457

大平は三木首相と会ったあと椎名と会談した。
「三木は木口小平だ。死んでもラッパ(首相の座)をはなさない。最後までモノをいい続ける」
「あなた(椎名)が三木総理をあやして格好よく踊りを踊れるように教えてやればよいでしょう。三木総理は灘尾総務会長をあなたとのパイプ役にしたがっている。だから灘尾に注文をつけ、三木の問題を整理してやればよい」
(椎名はそうだ、そうだと喜んだ)
「プエルトリコの七ヵ国首脳会談(サンファン会議)に三木総理が出席する。自分も蔵相として出なければなるまい。そこであなたが三木総理にフリをつけてやらねばならぬだろう」

「こうして三木と椎名との会談を終えた。このところ福田は三木や椎名との会談内容を全部 電話でいってくる。それでおれもこちらから会談内容を簡単に述べておいた。福田も今すぐ三木と対決しなくてよいのでホッとしているのではないか」
大平はこう私に述べた。
政治家の間の生の会談を私は久しぶりに聞いて 何か生き生きしたものを感じた。池田時代、時々 私は池田首相とこれと同じような会話をしたことを今さらのように思い出しつつ、大平に次のように感想を述べた。

458

「今日 あなたから電話をもらい、なぜか 大平は歴史に触れたな、という思いになった。
あなたがやったことは本来なら副総裁の椎名や幹事長の中曽根がやる仕事だ。あなたは副総裁か幹事長のやる仕事をやっている。一切の中心に大平がいて、大平を中心に政治が渦を巻いている感じだ。私は本当に嬉しい。
大平さんは今 完全に変わりつつある。今までは荒事は嫌いだし、不得意だったが、その荒事をあなたは淡々とやってのけている。これは一体どういうことだ。私はあなたが何か(歴史)に使われている、としか思えないのだ。今このことに漠然と気がつきかかっている男が私以外にもう一人いる。これが目白だ」
(「そうだ、目白に電話しなければいかんな」大平はそういった)
「情況が動いているのに大平から何も言ってこない。『今までならおれの感触を必ず聞きにやってくるはずだ。』ところが今後は全然 電話がない。妙だな、と田中は思っているはずだ。
あなたから何も電話をする必要はない。向こうからかかってくるのを待つべきだ。私は長いこと、このことを願っていた。あなたが田中角栄を肚の中に入れて これを消化してしまうことを願っていた」

459

私はこういった。別れぎわに大平は
「体を大切に」
といった。
大平と私はこの頃から間違いなく政局の中心に入りこんでいった。大平からの電話も連日のようにかかってきて、私もまた政局を連日のように実感した。
この頃、大平の長女で、森田一秘書官の夫人となった森田芳子は 私に次のように語ったことがある。
「父は朝、自分でダイヤルを回し伊藤さんのところへ電話をかけ、そのあとホッと安心する。母はこのことをよく知っていて 伊藤さんに来てほしいと思っている」

ところがこの大平の立場が、三木にとって極めて危険な存在として映りはじめるのだ。私はもちろん大平もこれを全く知らなかった。
国会の終わる頃だったか、読売の政治部長だった渡辺恒雄から、夜8時頃、突然 私の家へ電話があって
「大平と椎名は連動して動くのではないか」
といってきた。「大平が椎名と一緒に辞表を出すのではないか」という意味だ。私は
「大平は国のためなら辞表を出すだろう。人 (田中や椎名) のためになど出さないだろう」といったことがある。

460

また朝日の中島記者が
「鈴木善幸は田中寄りで、今では椎名寄りだ。この鈴木が三木打倒にふみきっている。三木の側は鈴木を完全にロッキード隠しの張本人と見ているし、大平もこれに加担していると見ている。椎名の三木降ろしと大福は別なものであることを明らかにした方がいい」
と教えてくれた。だが私はこの二つの意見をバラバラなものと見て、そのまま放置してしまった。
三木周辺は大平と椎名を反三木の中核と警戒し、閣内における大平の立場は急速におかしなものとなっていった。
6月11日、私が大蔵省に大平を訪ねると
「いま官房長の長岡に呼び返されて宏池会から帰ってきたところだ」
といいつつ、大平は事情を述べはじめた。
「今日午前、閣議を終えると三木は福田副総理、中曽根幹事長、松野政調会長を呼び、預金部(大蔵省)からの借入(融資)で国鉄のボーナスを支給する、という対策をきめたらしい」 (所管の大蔵大臣は欠席のまま対策が決められてしまったのだ)
「松野は主計局や大蔵次官に電話で直接、意向を打診してきた。事務当局は反対した。そこで、このことを早急に大臣に知らせて相談したい、というので帰ってきた」

461

「おれは事務当局に、政治家のおれは出すことを考える。お前たち役人は断ってよい。今おれはそう話したところだ」
話してゆくうちに大平は「蔵相をやめたい」といい出した。私は大平の苦渋の深さを知らず、いつもの病気がでたぐらいに思って
「嫌なことは取り組んで これを脱皮するしかありませんよ。ごまかして逃げても、これは一生つきまとうでしょう。どこかでこれを切らねばならない。今が一番いい時期ではないだろうか」
「福田は大平との提携を心から喜んでいる。この線を太くして公選をやればいい。新しい総裁を作るべきだ。自民党が立派な党に再生すれば 池田も喜んでくれると思う。解党新党、総裁公選、民主集中、機関決定ですよ」
私は一気にこう話すと、大平は
「そんなシャレたことはできない」
と苦り切る。
私は大平の気持ちなどお構いなしに、自分中心の思いに耽っていたのだ。松野や三木に対し、屈辱感を抱き、省内の大蔵官僚に足元を見すかされた不安を感じる大平に 私の話など耳に入るはずはなかった。
「大平さん、あなたは逃げたいのだ」
私がそう話すと、大平は
「その通り、おれは逃げたいのだ」
という。

462

私は
「今あなたがこの問題を逃げても、問題はまた別の形をとってちゃんとあなたの前に顔を出しますよ。嫌な問題というヘドロの中にあぐらをかいて、これを自分なりに解決するより外はありません」
「今あなたの思いは捨てる、という思いだ。大臣をやめるぞ、椅子など捨てればいいじゃないか。あなたはそう思っている。だがこの捨て方はおれ中心ですよ。おれは嫌だ、思う通りにならん、だから捨てよう、捨てたらさっぱりする、というだけではないか」
「ともかく大平・福田会談で話をつめてゆけばよい。政策と同時に政局の話をつめてゆくのだ。6月中旬からロッキード捜査は核心に入る。政局はパニック状態になる。サンファンから帰って、あなたは政局の転換を図らねばならなくなるだろう。今のこの問題など その時はどこかに吹きとんでいます」
私がそういうと、大平は突然
「明日から土日の二日間、家内と那須に行く。君も行かんか」
といった。私はそれに答えず
「那須はいい所ですよ。ゆっくり休養されてこられればいい」
といった。この時、私はなぜ大平が私を誘ったのか判らなかった。

コメント本文必須

残り文字

名前/性別

トリップキー16文字マデトリップキーとは

ハッシュタグ

記号(@、+、-、!、?など)はご利用いただけません。

動画10MBマデ


画像5MBマデ(JPG|GIF|PNG)


削除PASS半角英数4〜16文字マデ

共有動画YouTubeの共有URLを入力

ホスラブは完全匿名で投稿できますが、ガイドラインをよくお読みになってご利用ください。

同意してコメント

1.アクセスログの保存期間は原則1か月としております。
尚、アクセスログの個人的公開はいたしません。
2.電話番号や住所などの個人情報に関する書き込みは禁止します。
3.第三者の知的財産権、その他の権利を侵害する行為又は侵害する恐れのある投稿は禁止します。
4.すべての書き込みの責任は書き込み者に帰属されます。
5.公序良俗に反する投稿は禁止します。
6.性器の露出、性器を描写した画像の投稿は禁止します。
7.児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(いわゆる児童ポルノ法)の規制となる投稿は禁止します。
8.残虐な情報、動物を殺傷・虐待する画像等の投稿、その他社会通念上他人に著しく嫌悪感を抱かせる情報を不特定多数の者に対して送信する投稿は禁止します。

利用規約に反する行為・同内容の投稿を繰り返す等の荒らし行為に関しては、投稿者に対して書き込み禁止措置をとる場合が御座います。

中国地方版の掲示板一覧

copyright© hostlove.com All Rights Reserved.

トリップキーとは?

個人を識別するためのキーです。
トリップキーに入力された文字列から、
毎回同じ暗号文字が生成
されます。

例:[ホスラブ] → u7hgpnMxsk

※他者にはトリップキーに入力された文字列が分からないと、同じ暗号文字を作ることはできないため、掲示板などで個人を証明するために用いられています。
※16文字以内で他者に推測されない任意の文字列を使用してください
1.アクセスログの保存期間は原則1か月としております。
尚、アクセスログの個人的公開はいたしません。
2.電話番号や住所などの個人情報に関する書き込みは禁止します。
3.第三者の知的財産権、その他の権利を侵害する行為又は侵害する恐れのある投稿は禁止します。
4.すべての書き込みの責任は書き込み者に帰属されます。
5.公序良俗に反する投稿は禁止します。
6.性器の露出、性器を描写した画像の投稿は禁止します。
7.児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(いわゆる児童ポルノ法)の規制となる投稿は禁止します。
8.残虐な情報、動物を殺傷・虐待する画像等の投稿、その他社会通念上他人に著しく嫌悪感を抱かせる情報を不特定多数の者に対して送信する投稿は禁止します。

利用規約に反する行為・同内容の投稿を繰り返す等の荒らし行為に関しては、投稿者に対して書き込み禁止措置をとる場合が御座います。

お手持ちのスマートフォンで下記QRコードを読み取ってください

友達にこのページをLINEで送信する事が出来ます。

名前/性別6文字マデ

トリップキー16文字マデトリップキーとは

コメント本文必須

残り文字

ハッシュタグ

記号(@、+、-、!、?など)はご利用いただけません。

画像5MBマデ(JPG|GIF|PNG)


削除PASS半角英数4〜16文字マデ

共有動画YouTubeの共有URLを貼り付けて下さい。

ホスラブは完全匿名で投稿できますが、ガイドラインをよくお読みになってご利用ください。

同意して投稿

ローカルルールと検索方法

政治・選挙・国際政治(社会・政治・経済)

ローカルルール違反の話題作成は削除対象になります。