時計の針が午後6時30分を指す頃､田口麗斗(かずと)(22)はテレビのチャンネルを変えた｡日本シリーズ第1戦が行われた10月28日｡画面には､パ･リーグ覇者のソフトバンクと戦うDeNAナインの姿が映っていた｡｢あの試合に勝っていれば､自分たちがこの舞台に立てたかもしれない｣｡胸の内に再び､悔しさがこみ上げた｡
　今季142試合目の本拠地最終戦､10月1日の阪神戦だった｡巨人が残る2試合に連勝すれば､DeNAの結果次第で3位の可能性が残る中､大事なマウンドを託された｡｢絶対に勝たなければ｣と強い気持ちで臨んだにもかかわらず､三回につかまる｡4安打を集中されて3失点｡四回の攻撃でチームが2点を返すと､代打を送られて交代となった｡
　13勝を挙げて投手陣の柱の一人へと成長を遂げた今季､5回持たずに降板したことは､そこまで一度もなかった｡チームは敗れ､クライマックスシリーズ(CS)進出を逃した｡失意に沈む巨人ナインが引き揚げる傍らで､若き左腕はグラウンドに視線を送ったまま､動かなかった｡｢この光景を､この悔しさを忘れないようにしたかった｣｡阪神の選手がハイタッチを交わす姿を､ただ見つめ続けた｡