まだまだチャンスはあると思います。最終的には「ジャイアンツ来たな」と思ってもらえるようなゲームを続けていきたいです

　ありったけの力をボールに込めた。４点リードの６回２死一塁。田口は新井を追い込むと、最後はこの日最速タイの１４３キロで空振り三振。左拳を強く握って、雄たけびを上げた。「なんとかチームに勢いをつけるという気持ちで立ち向かえました」。６回３安打無失点の好投で、広島戦は昨季から９戦目で初勝利。通算６度目のマツダスタジアムで初の勝利も決めた。
　３イニングで先頭を出塁させたが「打者一人一人という気持ち」と冷静だった。６回の新井の打席では、阿部から「（球種を）いろいろ使ってみろ」と助言され、スライダー、チェンジアップで追い込み最後は直球で仕留め「粘り強く投げられた」と自画自賛した。
　憧れの存在についに勝った。広島出身の左腕にとって、黒田は「誰もが知っているというか、広島に住んでいれば頭にある」という少年時代からの英雄。過去３度対決したが未勝利とあって、「光栄と言うよりは、倒してやりたいという気持ちでいっぱい」と自らを奮い立たせ、投げ合いを制して自己最多を更新する５勝目を挙げた。

　高卒３年目。成長は野球面だけではない。６月上旬、同じ寮生の高卒ルーキー・与那原らに宅配すし約１００貫をごちそうして交流。与那原が「めちゃくちゃ優しい先輩」と信頼を寄せるなど、若手の先頭に立つ自覚が芽生え始めている。
　由伸監督は「開幕からずっと投げている投手なわけだから、先頭の四球だったり課題はまだたくさんある」とさらなる成長を求めた。「まだうちにも（優勝の）チャンスがある。最終的には『巨人が来たな』と言ってもらえるような試合ができれば」と意気込んだ２０歳。広島追撃のキーマンとなる可能性を感じさせる９３球の力投だった。

　２００勝を懸けた黒田との投げ合いを田口が制した。大ベテランを向こうに回して一歩も引かないどころか、内容でも大きく上回る投球を見せた。
　コントロールにミスがなかったのが好投の最大の要因だ。特に両サイドへの制球が抜群だった。前夜の試合で巨人の投手陣は縦のカーブをあまり投げていなかったが、田口は縦のスライダーを効果的に使い、前夜あれだけ打ちまくった広島打線にバッティングをさせなかった。
　私は前夜、広島打線の好調さの原因について「ボール球を振らないこと」を挙げたが、その広島打線がこの日はボール球を何度も振らされた。ストレートを投げる時も、変化球の時でも、思い切り腕を振っているから、打者には好球が来たように見えるのだろう。
　この日の投球だけで判断するなら、田口は「勝てる投手」だ。菅野に続き、安定感がある投手が出てくれば、巨人の先発陣の懸案事項は「マイコラスの復活」だけになる。後は打線だ。阿部、村田に一発が出て、坂本がタイムリーを打ったように、主軸は何も心配しなくていい。その主軸につなぐ１、２番をどうするかだけだ。１、２番が固定できて初めて反攻への態勢が出来上がる。

　４試合連続の中５日で、１８日の中日戦（ナゴヤＤ）に先発する。前回登板した１２日の阪神戦（甲子園）は６回５失点。東京Ｄで短距離ダッシュなどで調整し「勝つしかない。狙っているのは２位なので」。

　７回４安打無失点も１３勝目はお預け。４試合連続の中５日登板で好投し「前回、前々回と良くなかった時と比べると良かったと思う」。

　自身５登板連続の中５日で２４日のヤクルト戦（神宮）に先発。今季１２勝３敗の左腕はＧ球場で短距離ダッシュなどで調整し「テンポ良く投げていきたいです」。

　もがいた。苦しんだ。初回、田口はいきなり無死満塁の危機を迎えた。山田の遊ゴロの間、１点を失い、続くリベロに右前適時打を許し２失点した。その後も毎回走者を許したが、リードを守りきった。５回１１２球、９安打５四球３失点で今季１３勝目。意外にも神宮ではプロ入り初勝利だ。約１か月ぶりの白星に「自分の勝ちじゃなく、チームにつけていただいた勝ち」と笑顔なき勝利だった。
　５試合連続での中５日登板。初の経験に疲労もたまる。この５戦の防御率は３・７８。投げる時に上体が突っ込むことが課題だった。克服しようと、練習では菅野のキャッチボールを観察。エースは軸足に体重を乗せ、タメができていた。自身は前脚の着地が早いことが原因と発見。改善点が見えた。
　「自分でもいろいろと探っている状態。今後に生かせるようにもしないと」。次回登板は１０月１日の阪神戦（東京Ｄ）が濃厚だ。「次はやれることをしっかりして、自分の仕事をしたい」。力投で逆転ＣＳを呼び込む。

　昔々の話。この神宮球場でオレが先発した試合、１０―０と巨人が大量リードしていた。だが、当時の川上監督に４回２／３で降板を命じられた。なぜか？　勝利投手の権利を得られる５回、２死から３者連続四球を出してしまったのだ。勝ち星よりも、主戦投手としての投球内容にあらず―とお灸を据えられたのだろうね。
　この試合、田口に勝ち星がついた。５回を被安打９、５四球で３失点。「よく粘った」と評価する人がいるかもしれないが、オレはそうは思わない。巨人がＣＳに進出した場合、“４本柱”の一角の彼には必ず登板機会がある。短期決戦には長いシーズンを戦い、ベンチが信頼できる投手を送り出すもの。だから、任された投手には責任がある。

　田口は初回から苦しんだ。緩急と制球の良さが生命線なのだが、その緩＝チェンジアップ、スライダーの制球が悪く、３安打に２四球などで２点を失った。２回からどうアジャスト（調整）してくるだろうか？と注目していたのだが、味方が逆転してくれた３回、失点にはつながらなかったが３安打を許した。２、４回は２死から四球を出し、５回は２死から中村にソロを被弾。短期決戦を想定した中では、何とも心もとない投球が続いた。
　失礼な言い方だが、相手がヤクルトでなかったら、早いイニングでＫＯされていたかもしれない。調子が悪い時でも、マウンド上でしっかりアジャストできるのが主戦投手。結果オーライではなく、内容の伴った投球が見たいもんだね。