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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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案の定「何でそんなところへお参りにいかなければならないんだ」とあっさり断られた。
だがこちらとしては、身延山に行く途中の富士川にかかっているつり橋をどうしても見せたい。身延鉄道という私鉄がかけた通行料のいるつり橋で、かなり老朽化している。これを直したいという下心があるから、なんでもいいからとにかく来て下さいということで、強引に引っ張っていった。
そのつり橋を通る時、私は「大臣、これをつけかえてほしい」と切り出した。保利先生も私の作戦にニヤリとしたが、すぐ例の謹厳な顔に戻って「ウーン、これは危ないな。どうだい、聞いてやろうじゃないか」と側にいた道路局長だか、官房長だかに一言。たちまち「はい、分かりました」ということになり、翌年から架け替え工事が始まった。「政治」の力はかくのごとし。私は大いに感激した。

私には、田中内閣をつくったのはオレだ、という自負がある。その点、竹下はそうはいかない。佐藤さんの下で官房長官をやり、田中さんには命をかけていなかった。そんなことから田中さんに「ゾウキンがけをやれ」と言われるような苦しい道が始まったのだ。

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日中国交正常化を成し遂げ順風満帆で船出した田中内閣だったが、全盛期は意外に短かった。自民党がよもやの敗北を喫した47年12月の総選挙の後、私は第二次田中内閣の経済企画庁長官に就任した。物価の高騰が始まり、田中首相の「日本列島改造論」には早くもほころびが見え始めていた。組閣の前、外相だった大平正芳君に「企画庁長官に誰かいい人はいないかね」などと相談されたことがあったが、これが打診だったのだろう。田中君は「何とか物価を抑えてくれ」の一点張りだった。
とはいえ年が明けると、就任直前の前年11月に組んだ大型補正予算の影響が一挙に出てきた。私は物価抑制には財政支出を抑えるしかないと思い何とか過剰流動性にブレーキをかけようと試みたが、一度走りだした積極財政路線は容易に止められない。国会の答弁でも持論に傾きかけると政府委員から「あまり強調されると予算補正になってしまいます」というメモが回ってくる有り様だった。

田中君は吉田一派の中ではそれほど重きを置かれていなかったが、保守合同に際し吉田直系の13人が林譲治邸に集まった時には顔を出していて、いつの間に地歩を築いたのかと驚かされたものである。

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田中は今回の選挙に期待をかけていた。外交では前総理の佐藤がとった台湾路線をはっきり脱ぎ捨てるとともに、池田内閣の行ったような思い切った積極政策に出た。これもまた佐藤前首相とは違ったやり方だった。私は姿勢から見る限り池田時代と同じものを感じた。だが、どこか違う。何といったらいいのか言葉では表現できないのだが、ともかく “どこか危ない” のだ。順調に進んでいるようで、それでいてどこかポカをやりそうな気がしてならない。この内閣はいっぺん解散したらこれで終わりとなり、あとは急速にしぼんでしまうのではないか。私は選挙中、新聞紙上「いぜん田中ブームが続き、社党不振」といわれているときにも こう思わずにはいられなかった。
それには根拠がある。田中の経済政策だ。列島改造計画は東京を起点として 東京―博多間、東京―青森間など二本の新幹線で日本本土を縦貫し、これを中軸として各区域ごとに日本列島を横断する地域開発を狙うものだ。いわば所得倍増計画の地域版で、池田時代に新産都市開発といわれたものの変形といってよい。

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こういった具体的な地域開発の土台の中で 政府の行う公共投資、減税などの積極策を果敢に展開し、日本経済を根っこから盛り上げようという野心的なものだ。当然、鉄道、道路、空港、港湾などに財政投融資がふんだんにばらまかれる。
政府支出の増加をみて 政府の積極策が口だけのものでないことを見届けた民間資本は設備投資に踏み切り、住宅建設にとりかかる。これら民間資金は政府資金の流れと共に乗数倍の消費を促進する。個人消費と設備投資の間には完全に一対一の対応関係が生まれ、内需の拡大を通じて経済の拡大が始まる。
こうなると輸出が増加する。これにつれて原材料の輸入が増え 生産が増加する。輸出入の拡大と内需拡大、それに生産の増加が同時に進行して典型的な高度成長が実現した。
昭和47年10―12月、日本の国際収支は七〇億jの黒字であったが、田中内閣の列島改造ブームが進行すると九ヵ月足らずの間に二〇億jの赤字に転落してしまった。百億j近い黒字圧縮が九ヵ月という短期間に 例のV字型拡大均衡によって実現してしまうのだ。それほどの輸入の拡大、ひいてはGNPの拡大が起きたことになる。

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このとき急激な輸出増加によって流入したドルは輸出入の決済を通じて円に姿を変え、これがいわゆる過剰流動性となって国内を横行しはじめる。当然 物価は急速に上昇した。
昭和47年の卸売物価3.2%は翌年22.7%にはね上がり 49年には23.5%になる。47年の消費者物価5.2%は翌年16.1%となり 49年には21.8%と暴騰した。ともに一桁から二桁へと急上昇だ。
一番値上がりしたのは土地だった。鉄道や工場の用地、また住宅用地としての土地価格はうなぎのぼりとなった。随所に土地成金が発生し、土地ころがしをめぐって一億総不動産屋の狂乱状態となった。株も貴金属も書画骨董品も騰貴した。中曽根通産相はこれを「調整インフレ」といったという。
国会で共産党が田中総理を追いつめたのは この列島改造ブームの初期であり、解散・総選挙が行われたのは調整インフレの渦中であった。
自家営業の農民や中小企業者はいざしらず、大半のサラリーマン家庭では急速な物価上昇に追いつけず生活の前途に対する不安が黒雲のように目の前に立ちはだかった。都市票が自民党から共産党へと移動したのはこういう背景があったからではないか。

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48年という年は その年頭から自民党にとって多難が予想された。それを見越して橋本幹事長は 新春早々の1月6日、平河町の党本部に全国都道府県連の幹事長、総務会長、事務局長などを招集して会議を開いた。
― あらゆる意味で自民党のあり方を改めなければならない。
と痛感してこの会議を招集したのである。橋本は各都道府県連の首脳に向かって
「いうまでもなく今年7月に行なわれる東京都議会議員選挙、明49年6月下旬に行なわれる参議院改選選挙― これにはわが党として是が非でも勝たなければならない。もし敗れるようなことがあれば さらに共産党の進出を許すことになる。その結果、共産党のいう民主連合政権ができれば、民主主義は否定され、われわれは自由を失う」と危機感を訴えた。
橋本の意図は 自民党の組織強化をはかり共産党に対抗すべきであるというところにあった。また共産党の昨年12月における当選者のほとんどが若かったのに対し、自民党は来年の参院選に現役議員がそのまま出馬すれば70歳以上が32人もいる。候補者を若返らせることによって共産党に対抗しなければならないという思いもあった。

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橋本が最後に訴えたことは広報宣伝の強化であった。自民党の一般向けPR誌としては「自由新報」があるだけであった。かねて橋本は
― 週一回30万部程度の自由新報で、赤旗の日刊50万、日曜版250万に対抗するのは無理だ。
と考えていた。橋本は共産党伸長のひとつの鍵が巨大な広報宣伝にあることを12月総選挙でまざまざと見せつけられて
― 今度こそは自由新報、その他広報宣伝を強化しなければならない。
と考えるに至ったのだ。
一方 橋本としては幹事長の立場から 1月下旬に再開される国会にも眼をくばらなければならなかった。共産党は今度は40名をかかえる野党第二党である。院内交渉団体の資格をもって各委員会に一名の理事が入ることは確実であった。
そうなるとこれまで議会の慣例のわく内で社会党と勝負してきたのとは条件が違ってくる。悪くいえば横紙やぶりの提案や行動を共産党ははじめるのではないか。
― 共産党がそのような出かたをすれば社会党もこれに引きずられて同調するにちがいない。
という見通しを橋本はもっていた。
はたして1月12日、不破哲三書記局長と松本善明国対委員長とが記者団に共産党としての方針を発表した。

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「天皇の開院式出席については、この撤回ないしは修正を求める……という方針を日本共産党は決定しました」それについての記者団の質問に 不破はこのように答えた。
「その理由は第一に 天皇が開院式に出席してお言葉をたまわるという行為自体が戦前の帝国議会当時の遺物であります。今日の憲法、国会法など法的な根拠はまったくない。
第二に 天皇がたまわる言葉、これはどうも政治的発言が目だつ。政府与党が国会運営を進めるのに利用される懸念が大きい。
第三には この天皇の出席と言葉とは憲法に規定されている天皇の国事行為の範囲を越えるものといわざるを得ない。そこには開院式出席のことなど一言半句ふれていない。それを行なうというのは慣例上という根拠しかない。が この慣例が非民主的とわれわれは考える次第です」
その後すぐに不破と松本とは 中村衆院議長を訪れてこの旨を申し入れた。
衆議院議院運営委員会が開かれたのは翌13日であった。委員長の海部俊樹はまだ44歳の少壮であるが国会のベテランである。また理事には よど号ハイジャック事件で乗客の身代わりになり北鮮に行った「男ヤマシン」山村新治郎が坐っていた。

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共産党の理事である寺前巌が天皇の開院式出席反対の主旨の説明を始めたとき、海部も山村も こう考えた。
― 共産党もいよいよその正体をあらわにしはじめた。
― 共産党はその提案が通ろうと通るまいと それは問題ではないのだ。一石を投じ それが新聞や電波で宣伝されることを狙っている。
共産党の提案に対しては佐藤衆議院事務総長が説明にたった。
「旧憲法では天皇が議会を召集し開院を主催していました。これが今日の新憲法になり第一回の国会が開かれましたとき 開院式に天皇が出席されました。それは当時、各派交渉会で協議した結果、象徴である天皇をお招きすることに意見の一致をみたからであります。そこで天皇の御出席が慣例化されることになった次第です。
また新しい国会法の第九条には『開会式は衆議院議長が主催する』とあります。この議長主催行事のなかに天皇の出席を含むことを新憲法委員会で各党が一致して確認いたしました。
さらに昭和24年12月4日の議院運営委員会で共産党が『天皇の “御臨幸” という言葉を “御臨席” に変えよ』と提案されました。これに対して各党とも異論なく そのように改めました。

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その後27年、今度は『天皇が “勅語” をたまわる』という言葉を “お言葉” に改めることになりました」
自民党はもちろんのこと社会党、公明党、民社党も共産党の提案に反対した。
このため1月27日の開院式には従来通り天皇が出席し お言葉をたまわることになったが、共産党はこれに欠席した。

この間に「宴会政治」騒動というのがあった。赤旗が「宴会で与野党の委員会理事が話し合い、馴れ合いで決まるのには反対だ」という主旨の論評を掲載したのである。これを読んで議運委員長の海部も筆頭理事の山村も大いに怒った。
委員長と理事が一緒に飯を食いながら非公式に懇談することで 議事がスムーズに運ばれてきたというのがこれまでの実情だった。それに議運の宴会には共産党の理事寺前巌もちゃんと姿を見せていたからである。そこで海部、山村は寺前を呼んで怒鳴りつけた。
「なんだこの赤旗は。共産党だけが宴会に出ない、宴会に出た奴はけしからんということだが、げんに君は出ていたではないか」
さすがに寺前は頭をさげた。
「そのことを党首脳は知らなかった。僕の立場を考えて もうなにもいわんでくれ」と平身低頭した。

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