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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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異数の例外は鳩山総裁下の岸信介幹事長、石橋湛山総裁・池田総裁下の三木武夫幹事長と ごく稀でしかない。佐藤総裁下の福田赳夫幹事長は実質総裁派であろう。椎名は
― 幹事長を中間派から出せば 各派とも田中の反省、党改革の熱意、誠意を認める。党運営も超派閥的になる。田中の退陣後、後継者の調整も中間勢力によって公平、円満に進められる。
という考え方で あえて福田一幹事長という案を出したのであった。
しかし田中は、うーんと唸った。
「なァ椎名さん。本心を率直にいわしてもらえば、こういう時局なんだから幹事長は二階堂君にやらせたいんだ。福田一君は総務会長ということでどうだろうか?」
田中にしてみれば退陣の幕引きには ぴたりと呼吸の合う二階堂をあてたい心境であった。その心理は椎名にもよくわかった。
「そうか……やむを得んな」
椎名は田中の心情を汲んで一歩引き下がった。あとの二役については 幹事長に内定した二階堂が
「総務会長には鈴木善幸君を留任させてもらいたい」と希望した。また中曽根通産相が
「政調会長には山中貞則君を頼みたい」と要望してきていた。
田中は大平、中曽根の力を借りたいとこれを受け容れた。

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だがこのことは椎名構想を拒否した形になった。田中が
「三役などよりこれが大切なことなんだが……あなたには副総理として入閣を願いたい」
と正式に切り出した時、椎名は
「それは……勘弁してくれや」と断わった。椎名としては自分の三役人事を田中が全面的にのむならば あるいは副総理を引き受けてもいいと考えていた。それなら巧くこなせるだろうと思ったからだ。だがそれが受け入れられないとあっては副総理になったところで 田中退陣後の問題を捌いていく自信はなかった。
田中は執拗に食い下がって要請したが 椎名はかたくなに拒んだ。田中もあきらめの表情になった。
「あんたの案をのめなかったのは申し訳ないが 後々のことはなんといってもあんたが頼りなんだ。その時は無理をきいてもらいたい」
「その時は……その時のこととして わしも老骨に鞭打つ……」
淡々とした表情で椎名は席を立った。
この後、田中は慌しく官邸を飛び出して世田谷淡島に佐藤栄作を訪ねた。この日は
“佐藤栄作氏にノーベル平和賞” と朝刊に報道された日であった。佐藤は政界の長老たちから お祝いの電話を受けると同時に
「党内の平和にも力を尽くして下さいよ」といわれていた。

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この時には福田もまた
― 大長老佐藤栄作の手で後継者決定に運んでいく。
それを期待しはじめていた。もちろん大平には行かずに自分に……という目算からであった。そこで佐藤と会う約束をしていたのだが 田中訪問の飛び入りがあって福田は遠慮をした。
田中が佐藤を訪ねたのは
― 今度の内閣改造をガタつかせず スムーズに運んでフォード訪日後の退陣声明まで無事につとめあげられるように……また退陣後、混乱なく後継者が決まるように……大長老として重しをきかせてもらいたい。
そんな狙いからであった。
田中は佐藤と顔を合わせると― やはり昔の親分と子分の姿に返った。苦労を訴えもし 希望も述べた。だがそのあとは 佐藤が心構えをじゅんじゅんと説いて聞かせる結果になった。
「……総理大臣というのは孤独なもんだよ。僕はかつてそういったことがあるが 今の君にはよくわかるはずだ。君が総理になった時は マスコミは “今太閤” といって拍手を送った。ところが『文春』が出たとたん金権だ金脈だといって 古い話をタネに非難しはじめた。
だがそういって非難する財界も自民党の他の幹部も無責任じゃあないか。彼らにはいったい責任はないのかね。

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誰も君を攻撃する資格などありはせん。派閥次元で騒いどるところが多い。もっとも派閥的なことをいえば……君と福田の対立は 僕にも責任の一端はある」
佐藤も今は超然たるところに位置している。率直に角福の関係についての失敗を認めた。その上で総理の退陣のあり方について語った。
「進退……ということは僕は末期の二年間 たえず考え続けてきた。もう引退……といいたい時が何度かあった。だが一度辞めるといったら 誰も辞めていく総理のいうことは聞かないことになる。だから僕も容易にはいえなかった。今の君も 心中とは裏腹にそうだろう。
しかし決意した以上、君がよいと思うようにやりたまえ。退陣を賭してやれば後継者の問題は おのずと拓けてくるんじゃあないか……」
田中は眼頭を熱くして耳を傾けた。40分の会談を終わって田中が応接間を出る時、佐藤は
「君はまだ若いんだぜ。いくらでも将来がある」といった。

11月11日、田中は首相官邸に入ると 午前中に水田三喜男、船田中、安井謙、三木武夫、福田赳夫、保利茂の順序で息つく暇もなく
「改造を行なう。それについて意見を聴く」と凄まじい勢いで会談を重ねていった。

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その田中も さすがに三木、福田と顔を合わせる時には緊張を覚えた。7月辞任以来、この二人には満四か月、会っていない。その間に対立の幅は広さと深さとを増してきている。
執務室に入ってきた三木の表情も蒼く硬ばっていた。田中は握った拳骨で腹を切る動作をやってのけた。
「三木さん。改造をやる」
そういってテーブルを叩いた。
「一切 オレが責任をとる」
それはある意味では照れを隠す田中の独特の演技だった。また
― おれはもう退陣を決意している。今は黙っていてくれ。
という意思を示すものでもあった。三木はやわらかな話し方をした。
「僕は今日の危機が『文春』などでもたらされたとは思っていない……」
実をいえば三木は『文春』が出てからは周辺の人々に
「田中金脈とか人脈とか それを取り上げて田中内閣攻撃をやってはいかんよ」と戒めていた。スキャンダルめいた話は三木は大嫌いな人柄だった。
「金権 金脈も党全体の責任として反省すべきことだ。田中君だけが悪いようないい方は間違いだ。われわれが論ずべきことは ここまでに至った自民党をいかに改革し 近代化するか……それなんだ……」

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三木は『文春』問題で角福の対立がドロ試合化することを懸念していた。そうなった場合、三木派が三福連合という因縁で そのドロ試合の渦中に巻き込まれるのを警戒した。
― そうなったら三木派の面目が失われる……。
そのあたりに矜恃高く、それが孤高であっても守り抜こうとする三木という人間の特質があった。
それだけに田中を前にして三木は
「今日の危局は積年の悪弊のあらわれだ……と僕は思っている。改革、近代化が必要だ。しかしフォード来日までは政治休戦というつもりで何もいわずにそれを守ってきた。ところが今、総理はフォード来日を前に改造をやるという。その必要はないんではないか」と反論した。
「人心を一新したいんだ」と田中は答えた。
「しかし総理。世論は田中内閣の延命策として改造をやる……そのように見ている」
「そんなことは絶対にない」
「はたしてそうかね。それに国民は改造などでは満足しない。インフレ、不況、エネルギー……その政策遂行に政府が努めることを期待しているんだ」
「それはよく承知している。自分としては私心を捨てているんだ。君に約束する」
最後には二人の間の気分は打ち解けてきた。

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「なんとか このさいは改造を諒解してくれ」と田中は三木の両手を握った。三木は
「改造は大義名分に乏しいよ。派としては閣僚を推薦できんね」といいながらも 微かに笑った。
実はすでに田中派の西村英一が 三木派の井出一太郎と会って
「毛利松平環境庁長官を留任させる……。承知してくれ」といって事前の諒解を得ていたのである。

続いて部屋に入ってきた福田に― 田中は
「すべての責任をもって改造をやりたい」
と激しい口調でいい切った。
「なんと答えるべきかね、いうことはない」
福田は突っ放したようないい方をした。
福田派は依然、田中に対して攻撃的だった。秋以降、福田は田中の本拠である新潟市、長岡市に乗り込んで田中批判、非難の演説を展開してきた。ようやくここにきて
― もし田中が早急に退陣した際、田中派を激発させると死に物狂いで福田攻撃にかかる。福田政権実現に支障をきたす。
といった思惑から態度を和らげはじめてはいた。有田喜一、松野頼三たちが急進派の園田直の行き方に
「行き過ぎだ。これ以上 挑発的なことはしてくれるな」と釘をさしていた。有田がわざわざ保利に
「福田派は戦闘集団の態勢を解く」と釈明もしていた。

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としても一気に田中に笑顔をみせる気には福田はなれない。そのぶすッとした福田に 田中は
「若手起用ということで 安倍晋太郎君を君の派からとりたい」ともちかけた。
「それは……派としてはなんともいえんね。本人に訊いてくれたまえ」
それ以上話しても無駄とみて 田中は福田との会談を早々に切り上げた。

最後に会った保利は
「やはり椎名さんを入閣させねばいかん。いざ……という際の暫定政権、それでないと改造の意味がない」という主張だった。
「だが……椎名さんには断わられたんだ」
田中は気まずそうにいった。
「しかし もう一度 押してみることだ」
そういう保利に田中はこういった。
「椎名さんが入る……として その際 あんたも法務大臣で入閣してもらえんか。そうすれば椎名さんもうんといってくれると思う……」
「わかったよ」
保利はあっさりと答えた。改造にはそう時間はかけられない。それに椎名を補佐する形で行けば政局の舞台廻しもできると保利は読んだからである。
「その線で椎名さんを口説いてみる」
保利は椎名を訪ねた。椎名はうむ、うむと保利の話を聞いた上で
「君が補佐してくれるんならいいよ」
承知した椎名は官邸に姿をあらわした。

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この時、大平蔵相が田中に呼ばれて顔を出した。田中は
― 椎名、保利入閣の件で大平の諒解を得ておく。
そういうつもりだった。
執務室に椎名副総裁、二階堂、橋本新旧幹事長、官房長官に内定した竹下登を残して 田中と大平は別室に入った。
「椎名副総理、保利法相……」と田中がいった時、大平はにわかに顔を歪めた。
「……賛成できない」といった。大平は
― 椎名副総理ということは 田中退陣後の暫定総理の準備。
と承知していた。
― 椎名が暫定総理として政権を預かることになれば 公選は先にズラされて自分の政権は遠くなる。
それで反対したのだ。
― 田中退陣の後、すぐに公選を行なえば おれは福田に勝てる。
その自信が大平にはあったのだ。
「それは、のめない」
大平としては はっきりしたいい方であった。田中は大平と椎名、保利の板挟みになった形だったが……心底には
― 大平を不利にはできん……。
という情が強く動くのを抑えられなかった。
― このさい椎名、保利には詫びて、いずれ時がきたら時局収拾を頼むか……。今、椎名に入閣してもらわなくても、いざという時に椎名暫定政権を作れば間に合うことだ……。
田中はそう考えて大平の言葉に従った。

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椎名副総理、保利法相というせっかくの案は消えてしまった。
椎名は田中から頭を下げられて五分とたたない間に首相官邸玄関に出てきた。殺到する記者団に 椎名は
「角さんは好きなようにやればいい」
そういっただけで車に乗り込んだ。この後、田中が何度電話しても椎名邸では夫人が電話に出るだけだった。
「主人は一杯飲んで 寝てしまいました……」
田中はやむなく椎名派の荒船清十郎、山村新治郎たちを通じて ようやく椎名派からは浜野清吾元行管庁長官を入閣させることに決めた。
改造が完了したのは午後7時だった。記者会見室で竹下登官房長官が閣僚名簿を読み上げた。その後 記者団の質問にいつもの愛くるしい笑顔で答えながらも 竹下にはある種の感慨があった。
竹下は佐藤栄作の秘蔵っ子といわれ、当選五回、47歳で官房長官に抜擢された。だがそれは政権末期の「幕引き官房長官」で 竹下は政局の辛酸を嘗めさせられ苦労した。田中内閣になって二年間は筆頭副幹事長として党務を預り派閥を超えて信望を得たが、再び官房長官の椅子が回ってきたのである。
「今度の官房長官は前回以上の危局だ。再び内閣の幕引きを演じなければならないのか……」

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